音大生への就職アドバイス【6】苦手は克服しなくてよい

2016年7月17日

新卒面接をしていると、「私は学生時代、●●●なことが苦手でしたが、毎日、■■■の努力によって、苦手な●●●を克服しました!」なんて発言する学生がよくいます。本当ならば素晴らしいことだと思うのですが、私は面接マニュアルの想定問答のようで、正直うんざりします。

そういえば、先日、中途採用の面接で、私の採用活動史上、ベスト3に入ると思われるスゴイ方に出会いました。この方は、とにかく自分ができることとできないこと、得意なことと苦手なことを飾らず素直に、かつ具体的にお答えになりました。終了後、面接官全員、息を飲むほどすがすがしい気持ちになりました。その方は残念ながら、入社時期が合わずに採用を見送らざるを得なかったのですが……。

「弱点の克服」って言葉、一昔前のニッポンのおっさんサラリーマンには好感を持たれたかもしれませんが、私は違う印象を持っています。

ヒトはそれぞれ得意な分野、不得意な分野があります。実際、得意な分野と不得意な分野を兼ね備えるようなヒトは、論理的に成り立たないことが多いです。

例えば、物事をじっくりと分析をするアナリストと、スピード優先でアクティブに攻めるセールスマンは、職能として対極の位置にあります。「物事をじっくりと分析をして、スピード優先でアクティブに動くアナリスト兼セールスマン」なんて、まず存在しないです。

また、長所と短所欄がある履歴書がありますが、長所と短所は、往々にして一つの性格の表側と裏側の見え方にすぎないです。

物事をじっくりと分析をする=仕事の動きが遅い
スピード優先でアクティブに動く=おっちょこちょい

という風に、長所と短所って、実は印象の違いであったりします。

というのが、今回のテーマの前提。

で、私のマネジメントの現場感覚では、現代の会社において「成果」を出そうとすると、スタッフそれぞれに苦手な分野の克服にトライしてもらっている金銭的・時間的な余裕なんてないです。

苦手な分野には期待をせず、得意の分野だけに絞って伸ばしてもらった方が、スタッフのモチベーションは上がります。個々のモチベーションが上がれば、全体のパフォーマンスも上がります。だって、みんなその方が楽しいですよね?

会社で働くことの利点は、課であれ、部であれ、役員会であれ、チームプレーであることです。そして、最小の組織(=ユニット)は、私はロールプレイングゲームのパーティーが理想形だと思っています。

バリバリと先頭を走り、道を切り開いていく戦士タイプ。体力はなくても後方で傷ついたメンバーを癒す僧侶タイプ。カネ勘定に得意な商人タイプ。それぞれ長所と短所があって、短所を補いながらトータルで力を発揮するユニットが、実は最強だったりするのです。

なので、そういうユニットをいくつ編成できるかが、会社における人事のセンスといえましょう。

ロールプレイングゲームをプレーしていて、槍や剣を使いこなす戦士系タイプに、苦手な癒し魔法を覚えさせたりするでしょうか? 癒し系魔法の使い手に剣や重い盾を持たせたりはしないですね?

苦手を克服しようとする時間があれば、得意な部分を伸ばす方が効果的です。

組織のフラット化が進む21世紀の会社で生きていくには、その方が有効なのではと私は感じています。

実は私、ピアノに対する姿勢も同じです。もう40歳を過ぎていますし、毎日深夜帰宅で練習をする時間なんてないし、第一、アコースティックピアノを持ってないし……この環境下で、苦手なテクニックの克服にかけている時間とパワーはないです。通勤電車の中でもできる、そして得意なアナリーゼに注力しようと割り切っています。

繰り返しますが、弱点の克服は捨て、徹底して強みを伸ばしていきましょうよ。

音大生への就職アドバイス(全10回)

【1】言葉で表現すること
【2】ピアノ専攻は体育会系である
【3】会社をアナリーゼしよう
【4】経営者視点で見たピアニストと指導者の違いとは
【5】ウサギの視線、カメの視線
【6】「苦手」は克服しなくてもよい
【7】ハングリーで、おバカでいよう
【8】プロとアマチュアに境界線はない?
【9】努力は夢中に勝てないんです
【10】No.1になりポジションを可視化する


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