紀尾井ホールデビュー報告(後編)

2015年8月14日

金子勝子45周年コンサート
5月1日(土)に、紀尾井ホールで行われた『金子勝子 門下生&門下出身生による45周年記念コンサート“音の調べ”』、先に「紀尾井デビューへの道のり編」と「ホールデビュー前編」をお読みいだくことをお勧めします。

ちょうど角野隼斗君が「ラ・カンパネッラ」の演奏中に舞台袖に到着しました。舞台袖では、私の前で演奏する女子大生・稀代悠花さんが次の順番を待ってました。「私、すごく緊張する方なんですー」と不安げだったけど、ところがどっこいステージに出ると、堂々としたショパンのバラード第4番を演奏。「裏切りモノー!」と心の中で叫びました(嘘です)。

バラードの華麗な演奏を終えて彼女が帰ってくると、私に向かって地面に座り込みそうなジェスチャー。なかなかキュートな若女子です。

私の名前と曲名がアナウンスされ、いよいよ出番。ステージに歩き出して最初に感じたのが、「わ、拍手が降っている!」でした。コンクールって基本的に出演者に拍手しないし、人もポツリポツリなので気がつかなかったのですが、“拍手に包まれる”という日本語の意味が何となく実感しました。

以下、ステージで記憶に残っていることを箇条書きで。

● 集中力が途切れないよう、メインの声部を最後まで歌って弾いた。歌っていると、余計なこと考えずに済むので。後で友人から「鼻歌が響いてたよ」と聞いた。
● 序奏:この曲は序奏が命。単音の割りには重厚な音を出せていた気がする。
● アレグロ:ていねいに弾こうとするあまり、考えながら弾いてしまった。ラスト数小節前で暗譜落ち。復帰できそうにないので、覚えているコード進行に基づき、即興で“作曲”した。ポピュラーピアノをやっていてよかった(笑)。
※当初、アダージオを作曲したとブログ、ミクシィに書いてしまいましたが、アレグロの間違いでした。
● アダージオ:気持ちが吹っ切れ、力が抜けてよかった。とても気持ちよかった。「うさぎワールド」を全開でいけた気がする。このセクションは合格点かな。
● フーガ:テンポを落として安全運転で行こうとしたが、逆にフーガらしい「遁走」感に欠けてしまった気がする。二か所ほど音を外したが瞬間に復帰できた。「フーガでの瞬間復帰能力」(なんじゃらほい)は成長したかも。細かいミスはあったけど、構成はまずまず。前ノリのテンポで弾けば、もう少し躍動感が出せたと思う。
次に、本番二日後の今日、振り返ってみた感想。
● 9分間はとにかく長く感じた。バッハは力を抜けるところがないので、フーガの後半バテそうになったな。
● アマチュアは演奏において、「成果」よりも「プロセス」を聴き手に感じていただけるかが大切だと思っている(「企業の人事考課手法に基づく演奏評価」については、後日、ちゃんとブログに書こうと思っています)。その意味では、ここにいたる「プロセス」を演奏の中に感じていただくことはできたかな‥‥。
● 「実戦」ビギナーにはバッハはしんどいと思う(特にフーガ)。心のどこかで“崩れる”不安が拭いきれないし、いったん崩れると修復が困難。もちろん崩れたとき、どの音で復帰を図るかシミュレーションはしているけど、そんなこと考えていたら演奏に集中できない。流れに乗って一気に弾けるショパンのエチュードの方が、はるかに気持ちが楽だと思った。
● 練習時間が圧倒的に少ないので、一時間のスタジオレンタルを有効活用するためにも、5分以内の短い曲、数曲を並べた方が、一曲一曲の完成度を上げられると思った。例えば、バロックなら、バッハのトッカータ一曲よりもクープランやラモーの小曲を三曲とか。

演奏終了後、しっかりお辞儀をして、舞台袖に帰ると、地べたに座り込みたい気分なりました。とにかく、ただただ「終わったー」という想いだけでした。

コンクールのときは、演奏終了後に「あそこ、ああすればよかったな」なんて、クヨクヨ思い出すことが多いのですが、今回、心の中は「終わったー」という気持ちだけで満ちました。しばらくして、この一か月間のプレッシャーを思い出すと、「ひゃー、もうコリゴリだわ」という想いがジワジワ沸いてきました。

タキシードを脱いで楽になりたかったので、男性控え室に帰りました。控え室は誰もいなかったけど、隣から、ラフマニノフの「楽興の時」を練習している高取達也君のリハーサルの音が漏れ聴こえてきました。演奏前と終了後では、同じ場所にいるのに、まったく違う世界にいるものですね

着替えに手間がかかってしまい、一度目の休憩時間に客席につくことができず、音高・音大生がメインの第二部は、9番手の高取達也君から客席に聴くことになりました。空いている座席を探して座ると、おっとピアノ指導者のもなつさんが! 隣に座らせてもらいました。

ダイナミックな高取君のサン=サーンスのエチュードの後、アラフォー仲間のピアノ指導者・井上好美さんが登場。ラヴェルの「悲しげな鳥たち」は以前に聴いたことがあったけど、グラナドスの組曲『ゴイェスカス』より「愛と死」を聴いたのは初めて。

このグラナドスがすごかった! ピアニシモの美しさが光っていた。魔法使いが杖を振ると、小さな星がキラキラ飛ぶシーンがありますね。何ていうか、指先からピアニシモの音がキラキラ舞って、一瞬にして宙に消え入るような感じ。大人の女性のキャラクターにも、すごくマッチしていたなー。

ま、井上好美さんから後の方々はプロのピアニストなので、観客の一人になって、コンピレーションアルバムを聴くように楽しませていただきました。

中澤真麻さん。

ショパンのソナタ第3番を演奏。五人の中で“弾き手として”私が一番共感するピアニストです。中澤さん、そばに立つと身長が150センチそこそこのとても小柄な女性。初めて演奏を聴いたとき、この体格と小さな手で、どうしてこんなに響き渡る音が出せるのよ!とびっくりしました。こちらの演奏。プロとアマチュアの違いって、ホールの外で聴いたらわかります。プロピアニストの演奏は、ホールの外にいても芯のある音が漏れてくるのです。
ウィーンで活動する彼女を見ていると、女子マラソンで体格の大きいアフリカ勢と競り合って走る、日本人ランナーを思い出すんです‥‥なんてたとえだ。私も手は小さいですが、彼女に比べるとはるかに恵まれているはず。努力が足りんな!と演奏を聴きながら自省しました。

今西泰彦さん。

今日チケットを買っていただいた友人全員に、私の演奏は聴かなくても、今西さんの演奏は必ず聴いておくように!と念を押したピアニスト。「彼の演奏は誰とも違うから」と。この日は、ベートーヴェンの熱情ソナタを、通常ではありえないテンポでぶっ飛ばして演奏。やってくれました!

彼の演奏は、「熱情ソナタ」の中にぐさっと腕をぶち込んで、血まみれの心臓を素手で取り出して、「どやっ!」って観客に見せるような感じ。プリミティブな感動です。第三楽章は、エヴァ初号機の暴走シーン(「新世紀エヴァンゲリオン」第三使徒サキエル戦より)のようにドキドキしました‥‥なんてたとえだ。まさにライブに生きるピアニスト。二回目の休憩後、隣に座っていた私の会社の元同僚も、身を乗り出して聴いてました。

大崎結真さん。

ロン=ティボー、リーズ、ジュネーブ等、国際コンクール入賞多数。プロの中でも断トツのキャリアの持ち主。あまりにインパクトのある今西さんの演奏の後だったので、観客の反応はどうかなと思ったのですが杞憂でした。いや、ある意味、闘牛のような熱情ソナタの後、シューベルトのセレナーデだったので、メロディーの美しさが際立っていました。これぞ、カンタービレ。師匠好みの一曲。まさに音楽の花束ですね。

メフィストワルツが圧巻でした。均整と躍動は、高度に両立させることができるのですね。ハマーン・カーン操縦のモビルスーツ「キュベレイ」の華麗なる戦闘シーン(「機動戦士ガンダムZZ」より)を見るようでした‥‥なんてたとえだ。

で、ラストの根津理恵子さん。

残念ながら、カーテンコールの準備で舞台袖に戻らねばならず、根津さんの演奏は客席で聴くことができなかったのです。ただ、美しい後ろ姿を拝ませていただきました(一番上の左の写真)。今度は演奏会、お伺いいたしますね。

というわけで、昼12時30分から16時30分まで、4時間に及ぶ演奏会が終了。楽曲ももちろんですが、演奏者のキャラクターもバラエティーに富むラインナップだったな、と思います。

今回の演奏会には出演しませんでしたが、中学~高校生には、私が足元にも及ばない逸材がひしめいております。ぜひ、12月の門下発表会で「青田買い」いただければ、と思っております。

そして最後、師匠のご挨拶の後、カーテンコール。

私、カーテンコールなんても初めての体験だったので、ステージ上で何をすればいいのか、よくわかりませんでした。ここは、事前に打ち合わせがなかった。みんなも、ステージからどのタイミングで立ち去ればいいのか、ちょっと躊躇したみたい。

演奏会終了の後は、パーティーがあるので、ちゃちゃっと後片付けをして、ホテルニューオータニに移動しました。

パーティーの模様はこちら

金子勝子45周年コンサート
左/師匠と大崎結真さん。花一輪を手にした大崎さん、白百合のごとくお美しい方なのです。中/アラフォー仲間の井上好美さんと。「ピアニシモの魔法使い」と呼ばせてもらおう。右/子牛先輩=牛田智大くんと。この半年、いつもレッスンが前後だったな。


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