鍵盤楽器の起源、水オルガン「ヒュドラウリス」の響きを聴く

以前、「鍵盤」の語源について考えた際、鍵盤楽器の祖先として水オルガン「ヒュドラウリス」に触れました。

鍵盤はなぜ「鍵」の「盤」なのか? 語源を考える(2020年5月30日)

(繰り返しになりますが)今でこそ鍵盤楽器はピアノが代表のイメージがあります。実際には、鍵盤楽器の中でピアノは比較的後発。一番長い歴史を持つのはオルガンです。

紀元前3世紀頃に発明、鍵盤楽器の起源といわれる水オルガン「ヒュドラウリス」について考えてみます。

古代ローマの水オルガン演奏図
古代ローマのモザイク画に描かれた水オルガンを演奏する人(2世紀ごろ、リビアのトリポリ考古学博物館収蔵)

水オルガンを発明したクテシビオス

水オルガン「ヒュドラウリス」を発明したのは、古代ギリシャの発明家・数学者のクテシビオスです。彼は、当時の科学者ではアルキメデスに次ぐ人物だったそうです。蒸気タービンの発明や「ヘロンの公式」で知られるアレクサンドリアのヘロンの師ともいわれています。

クテシビオスは、空気の弾性についての著作『空気力学について』を記したことで気体力学の父とされますが、残念ながら著作物は失われたため、詳しい内容は分かっていません。

彼は、水オルガン「ヒュドラウリス」を発明したほか、水時計の改良も行いました。水時計は17世紀に振り子時計が発明されるまで、正確な時計という点でメジャーな存在でした。どうやら水と空気の特性を活かす、エンジニア志向の発明家だったようです。

クテシビオス製作・水オルガン
クテシビオスが作ったと言われる水オルガン

水オルガンの仕組みとは?

クテシビオスが発明した水オルガン「ヒュドラウリス」は、どのようなものだったのでしょうか?

お風呂の湯船で洗面器を逆さにして沈めていき、あるところで洗面器を傾けると、バコッと空気の泡が勢いよく上がりますね。水オルガンはその原理を応用した楽器です。

空気を入れた洗面器は、深く沈めれば沈めるほど何とか浮き上がろうとします(=浮力の働き)。その際、洗面器の底に穴を空けると、当然ながらプクプクと空気が逃げていきます。この穴にリコーダーを逆さにしてくっつけると音が出ますね。音程が違った音を出すリコーダーを何本か並べると、小さなパイプオルガンの完成です。

わざわざ水圧を使わなくても、足踏みオルガンのように常にふいごを使って空気を送り続ければよい気がします。ところが、ふいごからリコーダーに直接風を送り込むと、空気の量が一定にならないため、ハァハ、ハァハと音がきれいに持続しないのです。

一方、水圧を利用すると出てくる空気の量が比較的安定するため、音量や響きにむらがなくなるのです(実際には多少のむらは発生しますが)。

水オルガン、のどかな調べを聴く

さて、水オルガン。実際にどんな響きになるのかが気になるところ。YouTubeで検索すると、実際に水オルガンを製作し、演奏している動画をいくつか見つけました。

バグパイプの音色をやさしくしたような、のどかな響きですね。ふいごを足踏みにすると、一人でも演奏できそう。

下は「ヨーロッパ音楽考古学プロジェクト(European Music Archaeology Project)」の演奏より。

古代の水オルガンの響きに、壮麗なパイプオルガンとは違った地中海沿岸の風の音を感じました。


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