感想/水谷桃子 浜松国際アカデミー記念演奏会

2015年8月3日

ヤマハ銀座浜松国際ピアノアカデミー 第20回開催記念コンサートシリーズ」に初めて出かけかました。7月10日の菊地裕介&鈴木弘尚ジョイント・リサイタルから始まり、その後、高木竜馬くん、福間洸太朗さん、北村朋幹さんらと続き、今回は8人目で水谷桃子さん。7月24日(金)、ヤマハ銀座コンサートサロンで開催。

水谷さんのピアノを生で聴くのは初めてですが、浜松国際コンクールの予選で、バッハの平均律第2巻 ヘ短調をオンデマンドで耳にしたことがあり、表情豊かな前奏曲にとても惹かれました。最近のアーティスト写真で見ると、200年にPTNAコンペティションの特級準金賞を受賞した頃に比べると、ずいぶんと大人びた雰囲気に。楽しみに出かけました。

中村紘子氏が語る浜松国際アカデミーの意図

開演に先立ち、音楽監督の中村紘子氏の挨拶がありました。こんな至近距離で中村紘子さんを見るのは初めて。今年の3月に復帰されたものの、病気を患われてからちょっとお顔の色が悪かったかな。

実は私、彼女のインタビューや著書を読むのは大好きなのです。本音でズバリ、歯に衣着せぬ物言い(「権威」だからこそ、許される言葉ではありますが)。

今日も、浜松国際アカデミーを始めた意図として、20年前、日本人ピアニストに足りなかった「たくましさ」「しぶとさ」「(ずる)かしこさ」(だったっけ?)を、海外の若いピアニストたちと“まみれる”ことで学ぶ機会を作りたかった、と。

確かにピアノだけでなくビジネスの世界でも、日本人は基本的に「ピュア」ですからね。彼女のノンフィクション『チャイコフスキーコンクール』を読むと、審査員たちの裏の格闘が描かれていますし、スポーツやビジネスの世界では、力のある国々や企業に分があるルール変更はしょっちゅう行われるもの。

紘子さんはもちろん、この企画を20年間続けてきた浜松市と楽器メーカーに敬意を表したいです。

奔放さが持ち味、水谷桃子さんのピアノ

水谷桃子さて、水谷桃子さんのリサイタルの感想です。

最初にエクスキューズを。これは、私個人ブログでの「感想」ですので、他の人の感想は違っているはず。なぜ、こんな当たり前のことをしつこく申し上げるかといいますと、いまや自分の名前を検索をすると、ネット上に書かれたいろんなことを目にするもの。それらの信頼性や品質は玉石混合ですが、特に若い音楽家(だけでなく「表現者」一般)の場合は、ネット上で一人歩きする評価に心揺れることも多々あるでしょう。

若い音楽家の演奏会の感想を書く際は、読まれる可能性があることを意識しなきゃと思っています。

今日のプログラムは下記。

モーツァルト/ピアノソナタ 第9番 K.311 ニ長調
ワーグナー=リスト/歌劇『タンホイザー』序曲
(休憩)
ショパン/バラード 第1番・第2番・第3番・第4番
(アンコール)
リスト/「リゴレット」による演奏会用パラフレーズ

思い切りよく、奔放な演奏でした。

後半がよかった。

ショパンの4つのバラードは、ほとんど休憩なく4曲を弾きつないだ感じ。エモーションに忠実、頭でこねくり回すのではなく、体の内側から湧き出すイメージをそのまま表現してました。それでいて、30分以上、集中力が途切れることないのは、この4曲に対する深い想いと愛着があるからでしょう。

アンコールのリゴレットパラフレーズも同様。奔放だけれど、真ん中に強い集中力の磁場があって、エネルギッシュな魅力にあふれるリストの演奏でした。

一方、前半のモーツァルトのソナタとワーグナーの序曲は、ストラクチャー(どう組み立てるのか)の比重が高い分、エモーション(「楽興」といえばよい?)とのバランスが気になりました。両方とも、一つひとつのフレーズが素敵にキラキラと輝いているのに、トータルとしてストーリー性が弱い印象を持ちました。

たぶん、現時点では(あくまで現時点において)、エモーションのまま、赤裸々に思いの丈を表現ができる楽曲の方が、彼女の持ち味が生かせるのでは、というのが率直な感想です。

また、何年かして、ぜひ演奏会にお伺いしたいです。


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