金子勝子ピアノ教室発表会の記録(後編)

発表会レポート前編に続いて、今日は後編です。

さて、本番で緊張する理由は、聴いていただく人の「質」と「姿勢」に大きな影響を受ける気がする。クラシック音楽を聴きこんでいる人が、「質」が高い聴衆とは思わないが、知人や同門のピアノ指導者が、期待を込めた耳を客席からステージに向けているのは、大きなプレッシャーとなる。昨年の発表会では、客席に座る知人は仕事関係の友人と師匠だけだった。この一年、ピアノ指導者の知人が増えたので、心のどこかで“恥をかきたくない”という作用が働いているのだろう。煩悩だな。

カワイ表参道

「ミスをしないようにしよう」という意識があるとどうしても演奏が守りに入り、体が硬くなってしまうのは、本番を重ねることで理解した。だが、「暗譜が飛ばないか」という恐れはどうしても拭いきれないものだ。そんなことを、舞台袖でうだうだ考えているうちに、自分の出番が来た。

今日、演奏する曲は、バッハの「トッカータ ホ短調 BWV914」とショパンの「新エチュード 第3番 変イ長調」。

カワイ表参道のホール「パウゼ」は、客席とステージの高低差がほとんどないサロン風のつくり。なので、通常のホールのように、ステージに出て、最初に高い位置から客席を見下ろすプレッシャーはない。その代わり、客席が近いので、観客の視線、息遣いを右側にバシバシと感じることになる。サロン風のつくりの割に、結構、音がトーンと飛んでいくのが不思議な感じ。これは、ピアノのスペックによるものだろうか。

何人かのアマチュアのピアノ好きが「パウゼが苦手だ」と言っていた。だが、昭和音大の小ホール「ラ・サーラ・スカラ」に比べると、私ははるかに響きはいいと思う。そして何より、ここのシゲルカワイのピアノがいい。

ただ、実際にトッカータを弾き始めてみると、自分が弾いた音が反射して返ってくるタイミングが早いのだろうか、スカッシュの壁打ちをしているような気分になった。ちょっぴりせわしなく感じる。“密室で詰める”イメージなのだ。なので、ちょっとミスタッチをすると、バシっとミスした音が明確に返ってきて、瞬間ドキっとした。

バッハの「トッカータ ホ短調」は、ほとんどダンパーペダルなしで弾き通す。なので、ごまかしがきかない。残念ながら、何箇所かほころびが出てしまった。ただ、対位法的に縦糸・横糸が絡むフーガでほころびつつも、数小節で「復帰」を重ねて弾き通すことができた。ここが昨年のよりも上達したところか。ピアノも鳴っていた気がするし。

ショパンの「新エチュード 第3番」は、今回は「おまけ」の小曲。こちらは楽しくさらっと弾くことができた。もう少し、右手最上部のメロディーラインが明確にできればいいのだけど。まだ修行が必要だな。

演奏を終えてロビーに戻ると、本当に「やれやれ」とした気分になった。今年のピアノはこれにて終了。

私の後は、10分間の休憩の後、音大生とピアノ指導者の女性7人が演奏する。ドビュッシー「喜びの島」、ショパン「幻想曲」、ブラームス「四つの小品 Op.119」、ラヴェル「鏡」など。やはり“半プロ”の人々の演奏は、私と違って安定感があるなと思った。自分の演奏が終わったので、すっかりリラックスして演奏を堪能した。ドレス姿も華やかだしね。

7人の演奏の中で、私が一番印象に残ったのは、ピアノ指導者・Hさんによるチャイコフスキーの「ドゥムカ Op.59」。この曲は、今回初めて耳にした。発表会後半は、ショパンのバラードやらスケルツォやら、スクリャービンのソナタやら、華やかな技巧を駆使する曲が並んだだけに、ロシアの田舎の素朴なメロディーは引き立った。

素朴なメロディーをろうそくの光でポッと灯したような演奏だった。うーむ、これぞ大人の余裕だな。真紅の古風なドレスも、曲のイメージにマッチしていた。ステージの照明を落として、本当にろうそくの光の下で聴いてみたいと思った。

最後の演奏は、門下出身のゲスト演奏。今年はイタリアのイモラ音楽院に留学中の今西泰彦さんが登場。来年は、音楽院でショパンの全曲演奏をやるということで、「華麗なる変奏曲 Op.12」、「エチュード Op.10」から4曲、「幻想ポロネーズ Op.61」を演奏された。

今西さんの演奏を聴いたのは二度目。響きは、今日の出演者の誰よりもダイナミック。体にピアノの音が響いてくる。プロのピアノは響きが違う!と、いつもながら体感させられる。コンセルヴァトワールのアカデミックな系統とまったく違った、個性的なショパンだ。あえていうならイーヴォ・ポゴレリッチ。この場にいた、すべての生徒が「こんなショパンもあっていいんだ」「やっぱり、自分の個性、スタイルって大切だな」と思ったに違いない。

ゲスト演奏と師匠の挨拶が終わり、恒例のパーティーへと突入。生徒の自己紹介を兼ねたビンゴゲーム、プレゼント交換で締めて、この日の全プログラムが終了した。

ピアノ再開後、二度目のピアノ発表会は、昨年よりもいろんな人々と知り合えて、ハレの雰囲気を存分に楽しむことができた。演奏もさることながら、仕事とも地域とも違った交遊関係を持てることが、私にとっては何よりハッピーだなと思う。


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