「9.11」で亡くなった一人のアマチュアピアニストを想う

国立追悼施設「9/11メモリアムミュージアム」

「9.11」(アメリカ同時多発テロ事件)から20年。ニューヨークで開かれた追悼式典のニュースを見て、ふとワールドトレードセンターで亡くなった、あるアマチュアピアニストのことを思い出しました。

マイケル・ベンジャミン・パッカー(Michael Benjamin Packer)氏。

彼を知ったきっかけは、2018年春、息子と2人でニューヨークを旅行した際、「ナショナル・セプテンバー11メモリアル&ミュージアム(National September 11 Memorial & Museum)」(以下、9/11メモリアムミュージアム)を訪れたことでした。

9/11メモリアムミュージアムはアメリカ政府による国立公式追悼施設です。10年目の2011年9月11日に第一期としてメモリアルが開業し、2014年5月、第二期としてミュージアムが開館。

メモリアムはワールドトレードセンターの跡地に作られた「漆黒のプール」を囲むように、犠牲者全員の氏名が刻まれています。

9/11メモリアル・ミュージアム(ニューヨーク)
犠牲者の名前が刻まれた「9/11メモリアル」

一方、地下に作られたミュージアムには、旧ワールドトレードセンターの地下遺構や、高熱で変形した消防車などが展示されています。

そのほか、当時のテレビのニュース映像や新聞報道の様子や、2001年9月1日当時のタイムライン再現、2011年のウサーマ・ビン・ラーディン捕捉作戦について詳細な解説コーナーなどもありました。

9/11メモリアル・ミュージアム(ニューヨーク)
高熱で変形した消防車
9/11メモリアル・ミュージアム(ニューヨーク)
旧ワールドトレードセンターの地下構造物の遺構

犠牲者の足跡をたどることができる「イン・メモリアム」

ミュージアムで私が最も心を打たれたのが「イン・メモリアム」というスペースでした。2,977人の犠牲者一人ひとりのプロフィール、人生の足跡をたどることができるアーカイブがあります。ここは撮影禁止でした。

2,977人全員を見ることなど時間的に不可能なので、同世代のサラリーマンっぽい雰囲気の男性のボタンをなにげなく押してみました。

以下のようなプロフィールが表示されました(ミュージアム公式サイトに掲載されたプロフィール)。

Michael Benjamin Packer
February 20, 1956–September 11, 2001
BORN IN: Buffalo, New York
LIVED IN: Hartsdale, New York
AFFILIATION: Risk Waters Group conference attendee from Merrill Lynch & Co., Inc.

メリルリンチの社員で、リスクウォーターズグループの会議の参加者である、と。

続けて、彼の人となりを表示すると「He played the piano and, in his spare time, made harpsichords, 」という一節に目が止まりました。ピアノを弾いて、ハープシコードまで作っていた、とも。

そして“遺品”としてバッハのパルティータの楽譜が掲載されていました。

改めて彼のプロフィールをじっくり読み込みました。

MUSICAL AND MECHANICAL

Michael B. Packer had a Ph.D. in mechanical engineering from the Massachusetts Institute of Technology, which came in very handy at his children’s science fairs and birthday parties.

“When you walked into the house, you usually walked into a scientific experiment," said Ronald Soiefer, a close friend who had met Mr. Packer when they were Harvard undergraduates. One contraption had a microphone hooked up to a laptop computer, which recorded human voices and showed them as sound waves on a colored screen.

Mr. Packer, 45, of Hartsdale, N.Y., had many other sides. He played the piano and, in his spare time, made harpsichords, a trade he had learned as a student at Phillips Exeter Academy and Harvard. He made sure that his children — Sarita, 11, and Jonathan, 7 — were steeped in the classics. In June, he and his wife, Rekha, took the children on a tour of the Aegean Islands, following in the footsteps of Homer’s Ulysses.

Mr. Packer, who was to be the keynote speaker at a technology conference at Windows on the World on Sept. 11, joined Merrill Lynch in 1999 as a leader of a major e-commerce initiative. “He was very good at managing things," said Mrs. Packer, who remembers most vividly how he coped with the family, the house, his job and her convalescence when she suffered a brain injury in 1990. “Nothing really got him down. We really miss him for that now."

Profile published in THE NEW YORK TIMES on December 12, 2001.

Legacy.com 

マイケル・ベンジャミン・パッカー氏。マサチューセッツ工科大学出身のエンジニアでありつつ、ピアノを弾き、チェンバロを作り、二人の子供はクラシック音楽を親しむ。(ギリシャ神話の)ホメロスのオデュッセウスの史跡を訪ねて家族でエーゲ海の旅行へ。

つまり、専門職の会社員のアマチュアピアニストで、歴史好きで旅行好き。私と同類項だ……。

私のほかにも、アマチュアピアノコンクールの参加者には、彼のようなバックボーンを持つ男性が何人もいます。何だか急に、彼が身近な友人、ピアノ仲間のように思えたのです。

9/11メモリアル・ミュージアム(ニューヨーク)
白バラが捧げられたメモリアム

事故や災害を「自分ごと」とするために

「9.11」にしろ「3.11」にしろ記念日が来るたび、航空機がビルに突っ込むシーンや津波が町を飲み込むシーンなど、衝撃的な映像が繰り返し放送されがち。

それに、あまりに犠牲者の数が多い事故や事件の場合、犠牲者一人ひとりが匿名化されてしまって、肉親・友人でもない限り、「自分ごと」として考えることができないきらいがあります。

9.11の犠牲者はまさか自分が当事者になることなど、その瞬間まで思いもよらなかったことでしょう。日本で暮らしている私たちだって当事者になる可能性が決してないとはいえません。

犠牲者一人ひとりの人生に向き合うことで、何気なく生きている今が、実はかけがえのないものであることに気づくことができるのです。

事故・災害を「自分ごと」にするためにも、犠牲者の人生のアーカイブを残していく、伝えていくことは大切だなと改めて感じた20年目の「9.11」でした。

「9/11メモリアムミュージアム」公式サイト


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雑記旅行

Posted by 鍵盤うさぎ