トップセールス・虎猫、金麦妻を語る!

2016年8月1日

トップセールス虎猫
「あのコね、女友達いないですよ。きっと」

虎猫(仮名・34歳)は、私の目を見据えて吐き捨てるように言った。

彼女は部門のトップセールス。何となく顔つき、挙動が虎猫に似ている。時々、尻尾を膨らませてブチ切れたりする。が、狙った魚は、抜き足差し足で静かに忍び寄り、必ずしとめる優秀なハンターだ。

4月の売上予算も軽くクリア。ゴールデンウィーク前、昨年度の慰労も兼ねて私はディナーに誘った。食事を終えてデザートタイム。もうサンマでもイワシでも好きなだけ食べて!ってノリで、でっかいケーキを注文。

で、仕事の話から、お互いの好みの異性のタイプの話題になり、私が金麦妻を持ち出すと彼女の表情が曇った。

「うさぎさんのような年上の男性と食事をすると、金麦のあのコ、しょっちゅう話に出るんですよ。『またかよ』って感じです。もう、うんざり。」
「ご、ごめんよー。」

「あのコ、男性にはモテるけど、きっと女友達はいないですよ。私、あのコ、苦手ですね。イラっとくるというか。」
「そう? 彼女、友達いないんだ。」

「小学校、中学校くらいから、クラスで一人はいたんです、ああいうコ。彼女ね、女友達がいなくても平気なんです。」
「え、そうなの?」

「そうですよー。もう、人生、見切っているというか。普通、女性って仕事と結婚の狭間で悩んだりするもんです。自分はこのままでいいのか、もっと可能性があるんじゃないか、とか。でもね、彼女のようなタイプって、最初から専業主婦って決めているんです。」
「いいじゃん。それも人生だよ。」

「でも、そういうところが、女友達少ない原因なんですよ。うさぎさん、檀れいって女性誌の表紙にならないでしょ。あの金麦のCMで、檀れいってすごく損をしていますよ。女性に人気ないもん。」
「確かに。そういや、女性誌の表紙で見たことないな。」

「あと、あのコって、いきなり走り出したり、叫んだりするじゃないですか。私、あれもどうかと思うんですよ。おかしいですよ。うさぎさん、おかしいと思わないですか?」
「いやー、カワイイじゃん。」

「そうですよね。ああいうのが、男性はカワイイと思うんですよね。でもね、あのCMを見て、男性って金麦を飲みたくなったら、平日、奥さんにスーパーで金麦の1ダース買わせたりするんでしょ。私だったら嫌だ。ありえないですよ!」
「オレは、嫁さんに金麦買って来てもらったりしてないよ。でも、いいじゃん。仕事をしている虎猫さん、カッコいいと思うよ。毎四半期、予算も達成もするし。なんか、上を向いて外に向かって生きている感じがするよね。」

「‥‥‥。」
「ん?」

「‥‥‥私、専業主婦になるのが夢だったんです。一日かけて、家の中をピカピカに掃除すると気持ちいいじゃないですか。もう中学生の時から、ピカピカにするのが夢だったのに‥‥。」
「‥‥‥。」

虎猫の気持ちは難しい。

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